| 視点・論点 茂木健一郎 「脳と個性」 (20071015) |
| 視点・論点 茂木健一郎
「脳と個性」
2007年10月15日
脳科学者 茂木健一郎
個性の時代と言われて随分たちますね。
日本人はどうしても、個性がないとか、みんな同じような顔をしてるとか、いろいろ言われて、
われわれも反省するところしきりなんですけど、きょうは脳と個性の関係について、
考えてみたいと思うんです。
脳科学の視点から見ると、やはり個性というのは、創造性、新しいことを生み出すということと
非常に関係しているんですね。
私は、イギリスのケンブリッジ大学というところに留学していたときに、
本当に個性的な人たちをたくさん見ました。
ケンブリッジ大学と言えば、自然科学の名門なんですけれども、
街を歩いていて、パリッとしたスーツを着た、なんかかっこいい人が歩いていると、
あ、あの人は普通の人だと、むしろ思われてしまうんですね。
で、10年ぐらい着てるような、穴のあいたセーターを着て、ギーコーギーコーと
今にも壊れそうな自転車に乗っているおじいさんなんかを見ると、
あれはきっとすごい学者に違いないと、みんな思ったわけです。
私のいたのは、トゥエンティカッレジという、
かのアイザック・ニュートンが所属していたカレッジなんですけれども、
そこは今までに、ノーベル賞学者を30人出しているというところなんですけれども、
まあもう、変人のオンパレードですね。
ある25歳でノーベル物理学賞を取った学者などは、
机の上に書類がいっぱいうず高く積まれて、25センチ角のスペースしかないんです。
そこで仕事をしているんですね。
まあ、そういう学者だけじゃなくて、例えば、大学でいろんな機械を作る、
マシンショップにいたおじさんなどは、オウムおじさんと言われていて、
その部屋中にオウムの写真が貼ってありました。
そのようにまあ、ちょっと変わったところがあると、その個性をどんどんどんどん伸ばしていくと
そのようなことが許されるイギリスの社会っていうのは、すばらしいと思ったんですけれども、
このような個性が伸びるか伸びないかということを、脳科学的に考えたときに、
「ピアプレッシャー」というのが非常に大事になります。
「ピアプレッシャー」というのは、お互いに社会の中で相手に影響を与え合うときに、
どのような影響を与えるかということなんですけども、
大抵の場合、日本のような社会では、ちょっと個性がある人というのは平均値に下げるような
そういう「ピアプレッシャー」が働いてしまうわけですね。
これが脳の前頭葉とか、そういうところを中心とする自我のシステムだとか、
あるいはその大脳辺縁系を中心とする感情のシステムなどに左右して、
みんなの平均値のほうに下げてしまうという作用をするわけですね。
一方、私がケンブリッジで見た「ピアプレッシャー」は、
ちょうど逆に働く「ピアプレッシャー」だったんですね。
つまり、ちょっとくらい個性があっても、みんな感心してくれない。
その個性をどんどんどんどん伸ばすと、もっともっととんがらせると、
そうすることによって、初めて仲間から認められると。
そういう「ピアプレッシャー」が、イギリスのケンブリッジ大学では機能していて、
それがあの国の自然科学、本当にきら星のごとくニュートンとか、アインシュタインとか、
あ、ごめんなさい、ダーウィンとかですね、すばらしい人たちがいるんですけども、
そういう天才科学者たちを生み出す原動力になってきたんじゃないかと、私は思うわけです。
さて今、「ピアプレッシャー」と申し上げましたが、実は個性を作り上げるうえでは、
ほかの人との関係が非常に大事であるということが、研究の結果わかっています。
われわれはどうしても個性というと、生まれつき持っているもの、
遺伝で決まってるものだと思いがちなんですが、実はそうではないんですね。
あるアメリカの研究所が調べたところ、われわれの人格を形成するうえで、
他人との関係性というのは、非常に大きな意味を持っていまして、
そのうちの約2割は、実は両親から来るということがわかっています。
やはり親の影響というのは、かなり大きいんですね。
残りの8割はどこから来るかというと、実は人生の中で出会うさまざまな人々から、
少しずつ影響を受け取るわけですね。
そこで、おれたちといっしょになれよという、均質化の「ピアプレッシャー」がかかれば、
どちらかと言えば日本のような社会になってしまうわけですし、
それからイギリスのケンブリッジのように、どんどんどんどん変われと、
もっと違ったほうに行け、という「ピアプレッシャー」を受ければ、
どんどん違った方向に行くわけなんですね。
他人とコミュニケーションして、お互いに影響を与えるということで、
個性というのは作られていくわけです。
ところでこの他人との関係を通して、個性が作られるというそのメカニズムにはですね
大きく分けて2つあるんですね。
1つが共感ということです。
皆さん、学校で例えば親しい友達に出会って、すごく好きになると、
いつのまにかその人の考え方とか価値観とか、時には話しぶりとか口ぶりまでが
移ってくるってこと、経験されたことないでしょうか。
これはその脳の中の共感回路というのがありまして、
その共感回路が自分と他人をちょうど鏡で映したように映し出すことによって、
いつのまにか他人のふるまいが移ってくるわけですね。
一方、実は個性をはぐくむという視点から見ると、自分と違う人に会うことも大事なんですね。
われわれ例えば社会の中で、どうしても意見が一致しないとか、感覚が違う人に会います。
私も、一生懸命自分にとって大切なことを説明したのに、わかってもらえずに、
例えばその人にとっては、僕にとって大切なことが、実はあんまり大切じゃないんだと、
そのような経験をいっぱいしてきました。
しかし、そのような異質な他者に出会うということが、実は個性を鍛えるという意味では
非常に大事なんですね。
人間の脳は放っておいても、やはりひとりひとり違った方向に行くようにできてるんですね。
一卵性双生児というのは、遺伝子はまったく同じですけれども、
実は脳の大脳新皮質のひだひだの様子というのは、形が違うということがわかっています。
例え遺伝子が同じだとしても、大脳の形が違う、そして個性も違ってくると。
それは、われわれが自然に持っているひとりひとりの個性が伸びていくという方向性を、
一方では共感する、そして一方では異質な他者に出会うということを通して鍛える。
それが私は、脳の持っている潜在能力を鍛える一番の道なのではないかと思うのです。
ところで現代社会では、なぜこんなに個性個性と言われるのでしょうか。
僕は実は、アダム・スミスという人の書いた『国富論』という経済学の古典がありますけれど
この中に書かれている国際分業、つまりそれぞれの国が、得意なことに専業すると。
専業って、お互いに仕事を分け合うことで、世界全体の経済が発展するというようなことが、
いよいよ僕は個人レベルで起こってきている時代なのではないかと思うわけです。
インターネットが発達することによって、個性を持った人が自分の情報を発信することが
容易になりました。
そうするとどういうことが起こるかというと、世界の中でさまざまな個性を持った人が
ネットワークをとおして、お互いの個性を組み合わせたり、補い合ったり、
響き合わせたりすることができる、そういう時代が来たわけですね。
こういう時代には同じような人がコピーのようにいろんな所にいて、
これはあんまり意味がないんですね。
それぞれ違う資質や、興味を持った人がネットワーク社会の中に存在することによって、
社会全体としての強さが高まると、そういう時代に僕は来ていると思うんです。
ですから、日本もやはり今までのように、ちょっととんがった人がいたら、
それを平均値に引きずり下ろすような、そういう「ピアプレッシャー」
こればっかり強調することはやめて、ぜひお互いの差異を認め合って、
そしてそのネットワークをとおして、組み合わせていくと。
そういうことをやる社会になってきてるんじゃないかと思うんですね。
社会の中にいろいろ違う人がいると、いろんな人の意見を聞くのが楽しくなります。
インターネット上で、検索エンジンを提供しているグーグルという会社がありますけれど、
グーグルのCEOのエリック・シュミットさんに出会ったときに、
エリックさん、こんなこと言ってたんですね。
「私が最終的に決定するけれども、その決定する過程では、いろんな人の意見を聞くんだ」
「1人の天才的な人よりも、平均的な人が30人、40人集まったほうが、
これからは英知を持つ時代なんだ」と。
そんなことを言われてたんですけども、僕はそのようなことって、すごく大事だと思いますし、
しかしそのためには、それぞれが個性を伸ばして、いろんなバリエーションがあって、
その組み合わせでやっぱり人の意見を聞いて、集合していったときに、
何か新しい価値が生まれると、そういうことが大事な時代だと思うんですね。
ですから皆さん、自分は個性がないと思ってらっしゃるかもしれませんが、
そんなことはないんですよ。
皆さんの脳の中には、もう自然に個性が備わってますし、
またその個性を伸ばす働きも備わってるんですね。
ですから、ちょっとほかの人と違うことをするのが怖いって気持ちを抑えて、
自分の個性を輝かせて伸ばすということの喜びに目覚めていただけたらと思います。
どうもありがとうございました。 |
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| Uploaded: June 29, 2008 at 6:00 pm |
| Author: intelarchives2 |
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